【5】障害者情報アクセシビリティ・コミニケーション施策推進法 弁護士法人神戸シティ法律事務所の弁護士の平田と申します。私から祭典のオープニングとして2022年5月に施行されました「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」についてご紹介をさせていただきます。 この法律の内容についてお話をする前に、まず情報アクセシビリティ、それからコミュニケーションという権利が何なのかということについて、少しお話をさせていただきたいと思います。 これらの権利というのは、いわゆる表現の自由という権利に含まれるものだと言われています。我々が表現活動を行おうとする場合、何もないところからいきなり自分の意見を言うということは難しいので、 まずは本を読んだり、新聞を読んだり、インターネットで情報を収集したり、ほかの人の意見を聞いたりして情報を取得することが必要になってきます。 そして、自分なりに情報を整理し、自分の意見をまとめてほかの人と話をする。あるいはSNSで自分の意見を発信する。そして他の人と意見を交わすことによって、自分自身の考えを深めていく。 そして自分の考えを固めて、あるいはアイデンティティを形づくっていく、いわゆる自己実現を図るということですね。それから、自分の考えを社会に表明することによって、より良いと自分が思う社会に変えていく。 そういった社会形成への参加ということもコミュニケーションによって可能になっていく。 こういった一連の活動全てが表現の自由によって保障されると考えられています。 ですから、この表現の自由の中には当然情報を取得する、それからコミュニケーションをするという権利が含まれていると考えられているわけです。 今、お話しした情報アクセシビリティーやコミュニケーションの権利というのは、この法律によって初めて定められたものではありません。 例えば、日本も批准をしている障碍者の権利に関する条約においては、その第9条において 「障害者が自立して生活し、あるいは社会のいろいろな分野に参加するためには情報通信を利用する機会がほかの人と平等に確保されていなければいけない」ということが言われています。 それから、同じ条約の21条では表現の自由との関連において、「他の人と平等に障害者の方が情報を受け取り、そして伝える自由というものが確保されなければいけない」ということが言われています。 それから、障害者基本法においても、障害者の情報取得やコミュニケーションを円滑にするために、情報通信機器を普及させたり、あるいは手話通訳などの意思疎通の支援者を養成する措置が必要だということが定められていますし、 それから電気通信や放送の事業者、通信機器の製造メーカーに対して障害者の利便を図ることが努力義務として課されていたりします。 それともう一つ障害者差別解消法も、政府から発表されている基本方針の中で、情報取得や利用、コミュニケーションについて円滑に行うための環境整備を行政機関や事業者の努力義務と位置づけています。 ここからは法律の中身についてお話をしたいと思います。この法律は実は別に正式な名称というものが定められています。 「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律」という名前がつけられています。一番重要なのがこの目的規定です。 この法律の目的の中に「全ての障害者が社会、経済、文化等あらゆる分野の活動に参加するために情報の十分な取得と利用、そして円滑なコミュニケーションが極めて重要だ」ということが書いてあります。 これは一番最初に確認させていただいた情報アクセシビリティやコミュニケーションが、表現の自由にとって非常に重要だということとリンクしている内容かと思います。 そして、この法律の目的として、全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資するということが定められています。 次に、この法律の特徴についてです。この法律には基本的な理念やあるいは国や地方自治体が負うべき責務が定められています。 しかし、他方で具体的な規制内容や、あるいは罰則は定められていません。つまり、この法律は、情報アクセシビリティやコミュニケーションについて、政府、あるいは自治体がどういった政策を行っていくのか、 その基本的な理念や方針というものを示したものと考えられます。 こういったものを一般的に理念法と呼んだりします。では、基本理念としてどういうものが定められているか、ここに挙げた4つの理念に従って、障害者の情報アクセシビリティ、コミュニケーションの環境を整えていくことが定められています。 1つ目は、情報の種類程度に応じた手段を選択できるようにするということです。 2つ目として、地域にかかわらず、ひとしく情報を取得ができる。 3つ目として障害者でない者と同じ内容が同じ時点において取得できる。情報の内容、情報を得るタイミングについても、障害者でない人と障害者の方との差をなくしていくということが書いてあります。 そして、4つ目として、IT技術等の利用を進めていくということが記載されています。 それからこの法律の中で基本的に推進していく施策として、6つの分野の施策というものが定められています。 1つ目は、いわゆる情報通信機器に関するものであります。機器を開発したり、あるいは導入、入手、利用をいかに支援していくかについて施策を進めるということが書いてあります。 2つ目は防災や防犯といった緊急通報をいかに障害者の方に漏れなく伝えていくのかという施策。 3つ目は障害者の方の医療介護、芸術や文化、スポーツなど、社会生活におけるあらゆる分野でのコミュニケーションを円滑にしていくための施策として、例えば意思疎通支援者を養成するようなことが定められています。 それから、障害者の方から相談を受ける体制の整備であったり、国民の関心理解を促進していく、そして調査研究を進めていく。そういった分野に分けてそれぞれ施策を進めていくということが決められています。 この中で1点強調させていただきたいのは、情報通信機器等についての施策で、関係者による協議の場を設置することが法律上定められているということであります。 この規定に基づいて、実際に政府とそれから障害者の団体が定期的にミーティングを開いて、そこで出た意見をもとにこの施策を推進していくということが現実に行われています。これもこの法律の一つの特徴的な点かと思います。 情報アクセシビリティやコミュニケーションと聞くと、ITとの結びつきが強いという印象がありますけれども、今お話ししたように、この法律というのは必ずしもIT分野と結びついているものではありません。 情報取得やコミュニケーションというのは、日常生活、あるいは社会生活のあらゆる場面で必要となります。そして、その多くは対面でのコミュニケーションであるはずです。 それも含めて円滑なコミュニケーションを達成するというのが、この法律の目的であるわけです。法律ができてまだ1年足らずしかたっておりません。 具体的な施策というのは、これから出てくるということだろうと思います。この法律をもとにして、本当に障害者の方が円滑に情報を取得、コミュニケーションをすることができる。 そして、その結果として自己実現を図り、そして障害者の方も生き生きと社会に参加する。そういったことが可能な世の中になるということを期待したいと思います。 以上、私のお話とさせていただきます。ありがとうございました。