【セッションタイトル】 客観的な指標と主観的な意見収集 〜チェックリストのテストとユーザーテストの違い〜 スライド 1 ヤフーの中野と申します。よろしくお願いいたします。 今回はスポンサーセッションで話をさせていただきます。 「客観的な指標と主観的な意見収集 障がい者の力でアクセシビリティ改善」というタイトルで、アクセシビリティのテスト方法についてご紹介します。 スライド 2 始めに自己紹介です。 中野 信と申します。 ヤフーのサービスUIのガイドラインを作ったり運用したりしている組織で、ウェブアクセシビリティの向上に関わっています。 また、アクセシビリティでは「黒帯」という肩書きで技術エヴァンジェリストを勤めています。 社外では、2021年9月に発足したデジタル庁で、民間登用のアクセシビリティアナリストを非常勤でしています。 加えて、ウェブアクセシビリティ基盤委員会というJIS規格の周辺ドキュメントを運用している委員会で、理解と普及という作業部会で委員をしています。 スライド 3 今回ご紹介する話です。 1. 2つのテスト 2. チェックリストによるテスト 3. ユーザビリティテスト 4. テスト方法をどう選ぶか 4つの話をします。 スライド 4 まずは1つ目、2つのテストについてご紹介します。 スライド 5 アクセシビリティのテストでは、チェックリストを使ったテストと、当事者によるユーザビリティテストがあります。 どちらか一方だけでも十分なのでは? と思う方もいるかもしれませんが、それぞれの方法に特長があると考えます。 チェックリストによるテストは、様々な障がいや状態を網羅しているため、これを使うことで全般的な課題を見つけることができます。 一方、ユーザビリティテストは特定の状況や障害の課題を集中的に検証することができます。 また、ガイドラインは一般化や抽象化されているため、ガイドラインに対応してるだけでは実際のユーザーをイメージしずらいこともありますが、 ユーザビリティテストを行うことで利用している状況を具体的にイメージしたり共感できるようになります。 スライド 6 図にするとこのようになります。 アクセシビリティの課題や状態をチェックリストで広く確認します。 その中の特定の課題や状態をユーザビリティテストで確認するイメージです。 ユーザビリティテストで網羅的な検証をすることは難しいですが、 サービス個別、障害個別の課題を検証することができるため、チェックリストとユーザビリティテスト両方で補完しながらアクセシビリティを高めることが有効です。 スライド 7 それぞれ詳しく説明します。 まずは、チェックリストによるテストです。 スライド 8 そもそも、チェックリストとは何を指すでしょうか? ウェブアクセシビリティでは、JISなどの規格に付属するチェックリストがあります。それを使うことが多いです。 ウェブアクセシビリティの規格、JIS X 8341-3:2016では、ウェブアクセシビリティ基盤委員会が公開しているような実装チェックリストを指すことが多いです。 スライド 9 これは、実装チェックリストのサンプルです。様々なファイル形式がありますが、エクセルファイルやスプレットシートの形式が多いです。 それぞれの項目に沿って、達成しているかしていないかを一つずつ確認します。 項目が多いと時間も労力もかかりますが、抜け漏れが少ないのがこのテストの特徴です。 スライド 10 チェックリストの特徴を説明します。 まずは再現性が高いことです。 ウェブアクセシビリティの規格、JIS X 8341-3:2016は、原則、ガイドライン、達成基準と、項目が細分化していくにつれて具体的な内容になります。 そして、達成基準を満たすための技術的な方法は達成方法に書かれています。 先程の実装チェックリストの例では、この達成方法を満たしているか、満たしていないかをそれぞれチェックしています。 スライド 11 次に、透明性が高いことです。 達成方法、つまり、何の技術を使ってどのように達成するかが文章で書かれているため、人や環境によって方法が変化しにくくなります。 また、JISの達成方法の中には達成例と合わせて失敗例もあります。達成方法を満たせない場合に加えて、失敗方法を満たした場合も基準を満たせないことになります。 スライド 12 続けて、網羅性が高いことが上げられます。 チェックリストでは、一つの項目を深く検証することは難しい反面、多くの特性や状態を含めることができます。 見えづらい、見えない場合、聞こえづらい、聞こえない場合、操作が難しい場合、記憶や把握が難しい場合など多くの状態をテストすることができます。 スライド 13 このような特徴があるのがチェックリストによるテストです。 しかし、ウェブアクセシビリティのチェックリストの場合、網羅性が高いことと引き換えに、チェック項目がかなり多くなっています。 そのため、経験者や慣れている人であればすべての項目をテストするとよいですが、慣れていなかったり始めてやる場合は、 一度にすべてをやろうとするのではなく、分かりやすい達成基準の達成方法から見ていくとよいと思います。 今回は、1.1.1 非テキストコンテンツについて説明します。 スライド 14 ますは「1.1.1 非テキストコンテンツ」です。 この達成基準に「非テキストコンテンツに対して、それと同じ目的を果たし、かつ同じ情報を示す、簡潔なテキストによる代替を提供する」というものがあります。 要は、画像に代替テキストをつけましょうということです。 スライドでは、鬼のお面の写真に対して代替テキストをつけています。特徴が多いので「手作りの鬼のお面の写真。顔はピンク色に塗られている。5色の毛糸の髪の毛がつけられていて、角は黄緑に塗られている」としています。 「同じ目的を果たし、かつ同じ情報を示す、簡潔なテキスト」を確認しようとすると難しい場合もありますが、まずは写真や画像を説明するテキストを提供できていることが確認できればよいと思います。 スライド 15 続けて、ユーザビリティテストについて説明します。 スライド 16 実際のテストの様子です。 これは社内ツールをスクリーンリーダーを使って操作している様子です。 Webミーティングのツール、Zoomを使ってテストをしている人の画面と音声を共有してもらい、 その様子を見聞きしながらシナリオに沿ってテストを行います。 スライド 17 ユーザビリティテストをする時のポイントです。2つあります。 1つめは、シナリオ(タスク)前後の様子をよく見ることです。 何が問題か起きるきっかけをつかめたり、問題が見つかった後の行動で解決方法が分かることがあります。 2つめは操作が止まったり、操作を間違ったりした場合、その理由を聞くことです。 問題が起きる箇所が分かることも大事ですが、そこで何が問題で操作が止まるのか、あるいは開発者の意図とは異なる操作をするかを聞いて確認することで、問題の大きさや内容を具体的に把握することができます。 スライド 18 実際にテストで上がった声をご紹介します。 1つ目はPDFで読み上げられない文字がある、という声です。 これは、PDFをスクリーンリーダーでテストしてもらっているときに見つかりました。 最初は、コンテンツではなくスクリーンリーダーかOSの問題かと考えていましたが、調べていくと問題はコンテンツ側にありました。そして全く想像もしていないような問題でもありました。 見出しや短い文章であれば気づきやすいですが、長い文章の場合は文章を目で確認しながらスクリーンリーダーで聞いていると、1文字や2文字読み飛ばしている場合でも見落とすことがあります。そのため、当事者によるテストは貴重で大事です。 スライド 19 2つ目は衝撃的な声でした。「始めて見るウェブサイトは、画面を触ってページの構造を確認します」という声です。 これは、スクリーンリーダーのユーザーがページのメニューやレイアウトを確認するために、ページの先頭から読み上げていくのではなく、スマホの画面を適当にさわることで、要素の位置関係を確認するという話です。 本来であれば、メニュー、本文、フッターなどの各要素がスクリーンリーダーにも伝えられているとよいのですが、それができていない場合でも要素を確認できることを、テストから学ぶことができました。 スライド 20 最後に、今回紹介したテストをどう選ぶか、使い分けるかについて説明します。 スライド 21 どちらがどのようなテストに合っているかですが、 チェックリストのテストは何が問題か、どこに問題があるかまだ分かっていない場合にすると有用です。 あるいは、JISの規格に準拠しているかを確認する場合も、チェックリストでのテストになります。 一方、ユーザビリティテストは問題を深く掘り下げたい場合チェックリストでは見つけられない問題を見つけたい場合に使うと有用です。 チェックリストでは、問題が起きたときの結果しか分かりませんが、ユーザビリティテストでは、そこに至った経緯や何を考えていたかをその場で見て聞けますので、 より具体的に問題を把握できます。 また、実際に操作している要素を見ますので、できるできないというデジタルな結果ではなく、迷っていた場合や詰まりながら少しずつ進んでいくと言った様子も確認することができます。 スライド 22 まとめに移ります。 スライド 23 今回、お伝えたいことです。2つあります。 1つ目は、チェックリストのテストとユーザビリティテストはぞれぞれメリットがあるということです。どちらか一方が優れていてるということではなく、それぞれでできることとできないことがあります。 2つ目は、両方を組み合わせることで効果的なテストになるということです。アクセシビリティの問題は一律に同じ程度や量ではありませんので、難しい課題やそもそも課題が見つけにくい箇所はユーザビリティテストを使い、 そうでない箇所はチェックリストで確認すると、効率よく問題を洗い出すことができます。 スライド 24 以上で、「客観的な指標と主観的な意見収集 障がい者の力でアクセシビリティ改善」の話を終わります。 ご清聴ありがとうございました。